ここが Hen!

(第27話 いじめ)


 他の集団生活をする動物と同様,ニワトリにも順位があり,順位のある動物で一般的に見られるように人間の目から見た「いじめ」がある.ヒナでも小さな時にはないが,少し大きくなると順位がついてくる.特に餌を食べる順位には厳しい.一度下の順位になったものが先に餌を取ろうとしようものなら順位の高いニワトリ,特にメスは,必要以上に低いメスをつついたり,執拗に追いかけ回す.順位が下のニワトリに,この学習が順位を変える危険性を教える.同じ兄弟でも少し大きくなるとオス間,メス間で,はっきりした順位が付き,順位がはっきりしないときにニワトリは,特にオス同士では,血を流すようなけんかをする.メス同士の場合は,血を出すまではいかないがそれでも執拗な追いかけをする.それで一度順位が決まると変わることはほとんどない.

 一番下のニワトリを見ていると飼い主は,順位の下のニワトリが不憫でかわいそうになる.これは,自分をそのニワトリに投影して考えるからである.しかし,そのニワトリよりさらに順位の低いニワトリができると,その不憫なニワトリが順位の下のニワトリを執拗に追いかけ回す.かわいそうと思ったのは何だったのだろうと思う.それでは,順位は社会問題である差別と同様に,あってはいけないものであろうか? 結論を先に書こう.順位は,あってはいけないどころか,実は,動物社会の中では,なくてはならないものである.順位があるからそのニワトリ社会は平穏に過ごせるということを私はニワトリの行動から学習した.餌を与えると順位の低いニワトリの方が先に来ても,順位の高いニワトリが来るとすぐ場所や餌を譲る.それによって喧嘩が起こらなくなる.順位がはっきりすると,ニワトリたちは,さもお互い仲の良さそうに寄り添って砂浴びをしたり,団体で行動するようになる.下の順位のものが順位をわきまえているからである.

 従って,集団生活をする人間の場合も,子供のとき順位をつけようとするのは生物として当然である.私が子供の頃には、その順位は,親分子分の関係になり,いじめに繋がらなかった.下の順位のものが順位をわきまえていたからである.自分の立場をわきまえる順位の低い子供の方が,分別がある、偉い,というものである.年齢差のある近所の子供社会では,年長者が少し大きくなって子供社会から出て行くと格上げがなされ,最後には子分から親分になって卒業して行った.年齢が近いときには順位を上げるため,がき大将になるため,子供は,争ったし,一方では,あきらめ(世の中,自分の思うようにならないこと)を覚え,不必要に争わない,子分の身分の心地よさを覚えた.子分は親分に従わないといけないが,親分は子分をかばったり,守ったりしないといけないので大変なこともあり,子分の方が居心地よかったと思う子供もいたはずである.現代の学校社会では,同じ年の子供たちが集まったクラスが中心で,はっきりした順位が決まりにくいので陰湿ないじめがいつまでも続く.親からは可愛がられて比較的何でも思う通りになる家庭の方が,親分の言うことに従わないといけない,あるいは大将になるため競争しないといけない学校より居心地がいいのは当然である.学校での競争とは喧嘩だけでなく,成績の競争もある.成績がいいことが担任の先生から評価されるので,先生の威光をバックに体力がなくても,人望があまりなくても委員長になれることもある.また,親が怒っても慣れてしまって本気で怖がらなくなり,先生も暴力を使えなく迫力もなくなったら大人の言うことを聞かない子供に育ち,学級崩壊の遠因にもなっているように思う.

 一方,身分制度もなくなり,本人も親も社会も下の順位に甘んじようとしない.甘んじないと争いが起こるし,上の順位のものは,手加減を知らない子供の場合,ニワトリと同様,歯向かう下のものには容赦しないはずである.これが人間のいじめの本質で,順位に甘んじなかったら,甘んじない教育をしたら順位を争う競争が続くことは,いつの世にも起こることである.今は,人間は,基本的に平等であるべきという哲学で子供を見るので,順位の下のものが不憫になり,順位が決まるまでの争いさえいじめと考えているのかも知れない.人間は,生まれによって社会的に差別されてはいけないが,子供であっても競争の中で自分の落ち着ける順位を見つけることと矛盾はしない.弱いからいじめられるのではなく,社会の中における自分の順位を見いだしていないから争いが起き,もっと強いはずと思っているからいじめられる.

 子供が大きくなってから聞いたが,私の娘たちもいじめられていたそうである.人が20人集まればグループができる.子供のとき,娘は,どのグループにも入らず,クラスはみんな友達,を貫き通したそうである.グループに入らないと,誘っても入らないと,いじめられるのは当然だと思う.たくましく育てたあの娘たちだから苦しみながらもそれなりにやっていけたと思う.弱いからいじめられるのではない,強いからグループでいじめるのだろう.前に順位があることは肯定したし,いじめが起きるのも動物としての性(さが)と思うが,いじめられる子供の立場でも、いじめられる子供の親の立場で考えても,いじめはできるだけ無くすべきだと思う.

 それでは,いじめを無くすには,どうすればいいのか? このように,順位の必要性をニワトリから学ぶことはできても,私たちが,ニワトリと同じである必要はない.私たち人間は,他の動物とは違う.ヒントは,救いは,人間だけは,いじめられている立場に立って考えることができることである.

 教師や親に言いたい.人間が,他の動物と違うのは,相手の立場になって考えることができるということで,これを子供に教えなさい.もっと思いやり,やさしさを教えなさい,と!

 いじめている子供に言いたい.いじめられている立場になって行動しなさい.君がいじめられる立場だったらどう思うかい,と!

 いじめられている子供に言いたい.今は,つらいだろうが,人生には浮き沈みがある.必ず,必ず,生きていてよかったという時が来る.その時,君たちは他の人より弱い人,困っている人にずっと優しくなれるはずだよ,と!


 

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