地球温暖化

(本質を見抜く力 第21話)


 昨日(2021年10月5日)ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏が内定しました。大変喜ばしいことと思いますし、物理学賞に地球温暖化問題を取り上げたのはノーベル賞選考委員の英断だと高く評価できます。

 そこで、植物の研究家の目でこれまで地球温暖化について考えてきたことをまとめてみました。 まず、宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』(1932年) の p 64 に

ブドリは、クーボー大博士のうちをたずねました。

「先生、気層のなかに炭酸ガスがふえて来れば暖かくなるのですか。」

「それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われるくらいだからね。」

「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか」

「それは僕も計算した。あれがいま爆発すれば、ガスはすぐ大循環の上層の風にまじって地球ぜんたいを包むだろう。そして下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」

「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」

とあります。今と違って宮沢賢治は、冷害に苦しむ農家のために温暖化を望んだことが分かります。ただし、火山の出す二酸化炭素は火山ガスの主成分の一つではありますが、地球環境に影響するほど多くはないと思います。しかし、注目すべきは、二酸化炭素の温室効果ガスとしての働きが1932年の時点で知られていたことです。昭和の初期の科学と宮沢賢治の知識の豊かさに驚くばかりです。

 ガーデンライフ(廃刊)に連載をしていた時、『サザンカの種間交雑種はどこまで寒さに耐えられるか』(田中孝幸. 1988. ガーデンライフ 27 (12). 23-25.)の中で、1972年などの寒波で生き残ったツバキでも1978年の寒波でアメリカ東海岸にあるワシントンD. C.でほぼ全滅し、ツバキ愛好家の数が激減したと書きました。そこに書きたかったことは地球が寒冷化しているということではなく、逆にそれまでの約30年間もそこでツバキを露地で栽培できるほど寒くなく温暖化していたということでした。もちろん、ツバキを含む一般的な話として数十年(あるいは数百年)に一度の大寒波が植物の北限に影響することも書きました。

 一方、260万年前から始まった「第四紀」は、人類が進化・拡散、活動している時代という意味もありましたが、寒冷化の始まった時代でもあり、寒冷化と温暖化が交互に起こり、それに伴い氷床の拡大と縮小、さらに海面の低下と上昇、生物分布域の移動がくりかえし起きた自然環境変化の激しい時代と考えられています。およそ7万年前に始まった最終氷期には陸上の氷となったため地球上の海水量が減少し、驚くことに海面が約120メートルも低下し、陸地が広がりました。それが、1万年前に終了し、縄文時代の約7,000年前ころには、現在に比べても海面が2~3メートル高くなり、 日本列島の各地で海水が陸地奥深くへ浸入しました(縄文海進)。たとえば、福岡市で海岸は博多駅の近くまで広がっていました。このように長い目で見ると現代の地球は、100年前より温暖化し、7,000年前より寒冷化し、1万年前より温暖化し、第3紀(6500〜260万年前)より寒冷化しています。

 畑や森の温度を数年間調べたことがあります。夜間は気温とあまり変わらないのですが、真夏に日当たりのよい土や岩の表面の最高温度は70度以上に上がります。しかし、気温がそれほど変動しないのは、水に、陸地に比べて比熱も大きく、蒸発する時に気化熱を奪い、凝結の時に熱を放出し、雲として放射冷却を防いだり光を遮ったりするだけでなく、水蒸気という温室効果ガスとしての作用があるからで、水は地球の気温の標準化、温暖化に最も大きく寄与しています。水に比べるとわずかですが、二酸化炭素も温暖化に重要な役割を果たしています。太陽の光により暖められた地球の海面や地面の熱は、雲や温室効果ガスが放射される熱(長波など)を吸収し冷えるのを防いでいます。地球の温暖化というのは、近年、二酸化炭素、メタン、フロンガスなどの温室効果ガスが大量に排出され大気中の濃度が高まり熱の吸収が増え、気温が上昇していることを指します。私が中学生時代、二酸化炭素濃度は、約0.03%(300ppm)と習いましたが、最近は0.04%(400ppm)になっています。近年の気温の上昇は、自然の変動ではなく、人類が引き起こしたものと考えられ、そのため海面は19cm上昇したと言われています。これ以上、海面が上昇しないことを願っています。また、標高が約 600m で寒い阿蘇市波野の農家は「サツマイモが作りやすくなった」と喜んでいる一方、九州の低地の農家は「冬寒いのは暖房できるが、夏暑いのは冷房ができないので作物を作りにくくなった、例えばトマトなどでは栽培できる時期が短くなった」と嘆いています。


 

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