有機農業2


有機肥料と堆肥・厩肥


 有機農産物とは,有機肥料によって栽培された農産物であると混同している人が多い。農林省のガイドラインによると有機農産物とは,3年以上無農薬,無化学肥料で栽培されたものを指し,有機肥料で作られたものだから安全かというと、有機肥料だけで作られたものでも農薬をたっぷり散布されたものもあるので注意する必要がある。
 ここでは、無農薬栽培と混同しがちな有機肥料による栽培について説明する。


 1 堆肥と厩肥


 有機農業で用いる有機物には,まず堆肥と厩肥とがある。堆肥は、植物を腐敗させて作ったもので、厩肥は動物の糞でできたものである。ただし、牛糞堆肥は、厩肥とも考えられるが、牛の食べるものは、ほとんど植物で、それが反芻して噛み砕かれ、腐食されやすくなったものであるから、堆肥として扱われることが多い。このような堆肥が十分完熟したものは、ほぼ土であり、肥料効果は少ない。逆に、未熟の牛糞堆肥を畑に加えると、牧草の種子が雑草として繁殖したり,有毒なガスが発生するだけでなく、未熟の牛糞堆肥は腐敗する時,微生物の繁殖に窒素が必要で、土壌中の窒素肥料を消耗してしまう。同じ厩肥と思うかも知れないが,牧草を餌にせず,雑食性の豚糞の方がNPK成分も多く肥料としては優れている.
 一方,日本の畜産の糞尿処理が遅れていることは以前から指摘されており,ようやく野積みが禁止になったが,地下水汚染が深刻な畜産国のデンマークでは一年の半分畑にまくことが禁止され,オランダでは,インプット,アウトプットの計算から養える家畜の頭数が制限されている.また,日本は食料の輸入大国で,当然生ゴミあるいは人糞として栄養素が日本の周りに集まってくる.これは,ゴミ問題だけではなく,川や海の富栄養化,赤潮問題などの遠因となっている.このような問題もあり,地下水汚染に問題がない範囲であれば,地球環境をクローズド・システムと考えるとき畜産の糞尿,人糞の処理はリサイクルが最もよく,土への還元は重要になってくるであろう。


2 有機肥料


 肥料成分の少ないあるいはマイナス効果のある牛糞堆肥だけで作れる作物はイネやチャなど限られたものだけで、ハクサイなど多くの野菜類の栽培では肥料不足となる.
 そこで,同じ有機物であっても肥培効果,肥料成分の高い油粕、魚粉,骨粉あるいは鶏糞などが古くから用いられてきた.この他,最近ではグアノ(コウモリの糞),肉粕,皮革粉,血粉,カニ殻,カキ殻などの動物性有機質,コーヒー粕,おから等の植物性有機質,草木灰によるミネラル分など産業廃棄物も有効に利用することによって優れた有機肥料を作られている.
 堆肥には炭素分が多く,NPK成分が少ないのに比べ,これらの有機物は,十分に肥料として用いる価値がある.これらの肥料は,消費者に環境に優しいイメージと健康に及ぼす安心感を与える.さらに,化学肥料にない優れた特性を示すときがある.すなわち,土壌が柔らかくなり,肥培効果が長く続くのは一般的に見られるが,イチゴなどでは花芽分化が早い,トマトではツルぼけせず,美味しい果実が得られる.
 しかし,これらの有機肥料は,大量生産ができず,化学肥料に比べて価格が高く,速効性に欠け,手間がかかり,安定性に乏しいなど問題点も多い.1999年に有機栽培の試験区を作る際,無機質の化学肥料の中にも生物由来の物質,天然の岩石などを材料にした肥料があり,このようなものも用いてはいけないのかと悩んだ経験がある.例えば,炭酸カルシウムは,もともとサンゴの作った石灰岩からのものだし,熔成リン肥は,海鳥の糞からできたリン鉱石に蛇紋岩を混合して1600度で溶融して作られる.これらのものは天然のものであるが,有機物ではない.有機農業で用いて良い資材の表現が農林省のガイドラインでは曖昧であったが,1999年後半に用いることのできる肥料リスト農薬リストと共に公表された.もちろん炭酸カルシウムも熔成リン肥も用いてよいことになっている.
 


3 土づくり


 一般に、植物は、根から大きな分子の有機物を取り入れることができず、有機物は腐敗され、その多くは、無機物となって初めて吸収されるのである。したがって、有機農業もこの点において最終的には無機農業と大きな差はない。
 しかし、牛糞堆肥を含め有機物を加えることは、土壌の物理性の改善や無機成分の供給源として重要である。キャベツやダイコンなど比較的単価の安い露地野菜は規模の大きさで生き残らざるを得なく,数十ヘクタールの面積を工作している農家も多い.それだけの面積に堆肥を施すことは困難で,トラクターで耕起すれば半年程度の生育期間実用的に困らない程度,土壌の団粒化を維持することができ,化学肥料で栽培することができる.しかし,何年も有機物を加えないで栽培している畑は,すぐに固くなる.また,有機物を含まない土は、土壌微生物にとって食べるものがないので、その数が少なく、この点、農薬で土壌消毒した死んだ土とよく似ている。
 農家の多くが,このように生産性のため有機物をあまり加えないのかというとそうでもない.果樹だとか,バラのような木本作物,あるいは栽培に長期間かかる草本作物では,植えた後,土壌の団粒化のために耕起をすることができないので有機物を多く入れる傾向がある.また、多くの農家も土づくりの大切さはよく知っており,できるだけ有機物を入れようとしているのも事実である.
 化学肥料だけを用いた農業に比べ、有機農業をするには、堆肥作りなど、たいへんな労力がいる。また、消費者の立場からは、有機農業でできたものを買いたがるのに、住宅に近い所では、堆肥の匂いが臭いという苦情から有機農業ができないところも多い。それでも、筆者は、有機物に富んだ肥えた土、微生物の多い安全な土で育った野菜を食べたいと思う。