有機農業4



省エネ栽培



 野菜は、旬のものだけ食べればよいという人がいるもしれない。しかし、それは、多くの野菜で周年栽培が当たり前の日本に住んでいる人の言うことである。フィリピンでは、高温でしかも雨の多い6月から12月までの七ヶ月間の野菜の生産は全体の35%で、その間、ビタミンやミネラル欠乏など国民の健康が問題だという。日本では、暖房をしないと冬の寒い期間、生鮮野菜の供給は十分できないので消費者の栄養が偏ることになる。それでも温室を暖房して野菜を作ることが贅沢であり、罪悪であろうか。
 そもそも作物を育てることは、地球温暖化の1つの原因と考えられている二酸化炭素を減らす働きをもつ。二酸化炭素をできるだけ出さないことが環境保全とされているが、その点、二酸化炭素を減らす農業は環境改善産業として評価されるべきである。すなわち、植物の緑葉体では、光合成によって、太陽エネルギーを固定するだけでなく、酸素を供給し、二酸化炭素を現象させるからである。
 冬期のハウス栽培でも、暖房により一方的に二酸化炭素を発生するのではなく、太陽エネルギーを用いて作物は食糧を生産し、暖房で発生した二酸化炭素を減少させる。作物によっては、ビニールで保温すればよいものや比較的低温で育つものもある。また、暖房のため発生する二酸化炭素量以上に光合成で使う二酸化炭素の量が多い作物では、たとえ暖房をしても全体では二酸化炭素を減少させるものも多い。
 このように、冬期の野菜のハウス栽培は、野菜の周年供給、すなわち消費者の健康の点からも必要で、また、たとえ暖房をしても作物は二酸化炭素量を減らす働きをもつので、環境を必ずしも汚さないかも知れない。それでも、省エネハウスを作り、暖房を節約することは、農家の収入増だけでなく、より環境にやさしい農業技術であることは言うまでもない。無駄なエネルギーを使わないこと、二酸化炭素をできるだけ出さないことが望ましい。ここでは、そのための省エネハウスとして、温泉熱利用、ウォーター・カーテン、地中熱交換、一般管理、その他について取り上げる。


 1 温泉熱利用ハウス


 温泉地帯では、暖地以上に熱帯植物園が多く、また、別府など温泉熱を一般の生産農家も利用しているところも多い。熊本県のように火山が多く、また、温泉の多く出る所では、ハウスの暖房に利用すべきである。特に、山間部の温泉地帯では、夏が涼しいので、平地では真似のできない農業ができる。これまで夏越しや開花促進のため山上げをするか、夏温室の冷房をしていた作物、たとえばシンビジュームやファレノプシスなどの蘭類やイチゴなどでは、夏の冷房費、冬の暖房費の両方が節約できる。
 ただし、温泉の質によっては、管が閉塞や腐食によって、消耗が激しく、経済性がそれほど高くない時もある。また、温泉が十分でるという条件も必要である。

 2 ウォーター・カーテン


 ウォーター・カーテンとは、温泉ほど高温でないが、地下水が冬でも15度前後の水温であることを利用したシステムで、その点、温泉熱よりも広く利用できる。地下水をハウス上の塩化ビニールパイプに開けた小さな穴から放出することにより、ハウス内の温度を維持する方法である。玉名郡横島のイチゴ栽培では広く利用されており、ウォーター・カーテンを用いると、イチゴ栽培では、暖房設備をほとんど使う必要はない。したがって、約200メートルのボーリング代を含めたウォーター・カーテンに必要な費用は、1年分の暖房費の節約で済むそうである。
 一見するとウォーター・カーテンで用いる水の量は、それはど多くないように見える。しかし、横島のように多くの農家で井戸を掘れば、近くの井戸の水位が下がってくるので、湧水への影響や工業用水など、地下水の権利の問題も生じるかもしれない。ただし、まわりが水田地帯の場合、水田と水を競合しなくて済む冬作に水を使うのであれば大きな問題はないものと思われる。また、山間部の冷涼地での厳冬期の散水は、量が少なければ、氷結を起こし、ハウスを傷めることもある。厳冬期を避けたり、水量を増やしたり、二重カーテンの内側に散水するなどの対策が必要であろう。
 裏山がある所ではパイプを埋設するだけで取水でき、モーターや電気代の節約になるであろう。逆に、ウォーター・カーテンは、夏期、夜冷育苗をするとき、夜間の冷房に使えるかもしれない。

 3 地中熱交換


 冬期でも太陽の照るときには、ハウス内は30〜40度くらいまで気温が上がり、換気によって熱を外ににがしてやる必要がある。地中熱交換方式とは、この余剰熱エネルギーを空気より比熱の高いハウス地下の土壌に蓄え、夜間それを放熱する方法である。ハウス内の高い位置に空気の取込口を設け、送風機によって地下に埋没したパイプに送り、昼間は土壌を暖め、夜間はその熱をハウス内に送り返す。
 実用性の高い技術であるが、暗渠(水はけをよくするため、地下に水抜きのためのパイプを埋設したもの)と組み合わせて作られることが多かった。この方法だとパイプの穴を通して根に空気を供給し、暖かい空気を入れるので地温も上がるのではないかというメリットが考えられた。しかし、実際は、暗渠と組み合わせるとパイプに穴から水が入るので、出てくる空気の湿度が高くなり、排気口では、病気の発生が増えるという問題が生じた。また、水分が蒸散するとき気化熱を奪うので、昼間でも地温が下がるというデメリットを伴った。したがって、地中熱交換の設備は、暗渠とは別に穴の開いていないパイプを用いて設けたほうがよいものと思われる。
 この地中熱交換方式は、冬、日射量の多い太平洋岸で特に有効で、天気の良い日には外気温との差は最低気温で10度以上が期待できる。冬期の熊本県の日照時間は、太平洋岸ほどではないが、福岡などと比較して多いので普及効果が期待できる。
 地中熱交換方式は、広い意味で、ソーラーシステムの1つと考えられる。温水器によるいわゆるソーラーシステムも、ハウスの省エネ対策として研究機関では採用され利用されている所もあるが、設備費が高く、実用的ではないものと思われる。

 4 一般管理

 一般のハウス管理でも、省エネを計ることが可能である。
 被覆資材の違いで保温あるいは断熱効果が異なってくるし、被覆の方法、たとえば二重カーテンをすることよって省エネを計ることができる。植木のスイカ栽培では苗の定植時には、5層の被覆を行っている。
 暖房の仕方では、変夜温管理をすることによって、省エネができるだけでなく、収量をふやすことができる。夜温は日没から4〜6時間、転流促進のため、比較的高温に保ち、その後、日の出までは呼吸抑制にため、低温に保つ。たとえば、トマトでは前夜半は11〜13度にし、後夜半は8度に保つようにする。


 5 その他の省エネ方法

 ゴミ焼却場から出る廃熱の利用として、ハウスの暖房が各地で行われている。ゴミの焼却場だけでなく、発電所その他、廃熱のあるところは、できるだけ有効にその熱を利用すべきである。
 オイルショックの時、ハウスの熱源のため、いろいろなボイラーが考案された。その中で、実用化されたものとして、古いタイヤや廃油など廃材を燃やすことのできるボイラーがある。
最近は、重油の値段が安いので、燃料を運んだりするのに労力のいるこれらボイラーの需要は伸びていないが、今後、石油の値段が上がった時、再び普及するかも知れない。これらの熱源は廃材を利用するといる点で合理的に見えるが、二酸化炭素の発生や有毒ガスの発生など、必ずしも環境にやさしくないものと思われる。