ここが Hen!

(第44話 烏骨鶏)


 烏骨鶏には,白と黒の2種類がいる.私の一番の趣味である囲碁のことを「烏鷺(うろ)の戦い」とも言うが,烏とは,カラスのことで黒石を,鷺とはサギのことで白石を暗示する.ただし,佐賀県の人には,白いカチガラス(カササギ)が多く,普通のカラスを追い払うのでカラスが黒いというイメージを持っていないことが多い.また,シラサギという鳥の種は存在せず,日本にいるサギはダイサギ,チュウサギ,コサギなどの白いサギだけでなく,体の大きなアオサギ,沖縄などに多いムラサキサギなど白くないサギがいたり,ゴイサギのようにヨガラスとも言われるサギもいる.さらに,トラクターで畑を耕していると掘り返した土の中にいるミミズなどの動物を求めてカラスとサギが一緒についてきたり,緑の草原に放牧している阿蘇の赤牛に白と黒のサギとカラスが仲良くとまったりしているのを見るとこの2種の鳥が戦いをするとは思えないので「烏鷺の戦い」という表現があまり適切でないように思える.一方,烏骨鶏は,性格のやさしい品種ではあるが,黒と白の2種類の雄を狭い籠の中に入れておくと軍鶏(しゃも)など他のニワトリと同じように激しい戦いを繰り広げると思う.

 ただし,私が以前飼っていた白の烏骨鶏の皮膚の色は,よく見ると真っ黒だった.さらに,驚くことに烏骨鶏は骨も黒く,それが烏骨鶏(烏のように骨まで黒い鶏)の語源になっている.私は中国の雲南省昆明のレストランのスープで烏骨鶏を初めて食べた.骨が黒かったのですぐに分かり,通訳の方に確かめた.カラスを含め,脊椎動物の中で骨の黒い生物を私は烏骨鶏以外に知らない.また,鳥類の趾(指,あしゆび)の数は,前に3本,後に1本の4本で,前と後から枝など,物をつかむことが出来るようになっている.ところが,烏骨鶏は,多くの場合,後の趾(あしゆび)が2本あり,脚毛(きゃくもう)が生えている.これも鳥として極めて珍しく,私は,烏骨鶏以外で5本指の鳥を知らない.また,体や翼に,はっきりした羽(Feather)は生えず,大人になっても全身がヒヨコのように長い綿毛で覆われており,このことについても他の鳥やニワトリとは大きく異なる.烏骨鶏は,もともと中国原産のニワトリであるが,極めて珍しく美しいニワトリなので日本にも古くから導入されていた.もし,こんな鳥が日本などで知られておらず中国で新たに見つかったとしたらパンダ並みに話題になったことは間違いない.

 このように,烏骨鶏は鳥の仲間としても非常に変わった鳥で,私は,生物学的に考えると種のレベルで少なくともニワトリとは異なるのではないかと思ったほどである.しかし,チャボやコーチンと一緒に飼っているとお互い同種としての行動をとる.チャボやコーチンの雌の間で順位ができ,また,チャボの雄は,烏骨鶏の雌を雌として認識し交尾していた.卵を孵さなかったので雑種はできなかったが,動物は,別種であれば決してこんな行動をとることはない.ただし,形態的な特徴だけでなく,生存能力はチャボほど強くなく,チャボと一緒に放し飼いにするとチャボほど長生きできなかったことからも野生では絶対に存在しない鳥で,人間が作り出した品種であることは間違いない.烏骨鶏は,人間が育種した数ある動植物の品種の中でも特異的で,単に珍しいニワトリというより鳥の常識を覆すような極めて珍しい生き物である.


 

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