マックユーザー

(本質を見抜く力 第20話)


 1986年頃,アメリカにいたことがある.子供が通っていた小学校で1年生の娘はコンピュータを使ってマウスでお絵かきをしたり,5年生の娘は翌年のカレンダーを作ったりするというので驚いた.アップル社のパソコンと聞いた.一方,大学ではIBMのパソコンを使ってBasicでソフトを作っていた.私もNECのパソコンで7千行の統計ソフトなどを作ったことがあったので,生物学部では重宝がられた.ソフトがなければ高いコンピュータもただの箱の時代であった.そんな時代に,小学生がパソコンを使えるというので驚いたのである.最初は,大学で使うIBMのコンピュータの方が小学校で使うコンピュータより進んでいるはずと思った.しかし,それでも何か変に思ったものである.(後で分かるが、実際は小学校で使うコンピュータの方が大学で使うコンピュータより優れていた!)

 ちょっと似た話になるが,しばらく前まで,マックを知らなかった人は大勢が使っているウィンドウズの方が優れていてマックは劣っているから少数派なのだろうと思っていたように思う.また,私がマックの方が使いやすいと説明してもウィンドウズに慣れているのでウィンドウズユーザーにはマックは使いにくいだろうと言っていた.また,マックの方が性能は優れていると知っていても値段が高かったので安いウィンドウズのパソコンを買う人も多かった.

 3年ほど前,ウィンドウズも使い勝手は一見マックに似て来たし,マックではたまに文字が異なることがあったので周りに合わせるためウィンドウズマシンを買ったことがある.2週間ほど使って普通の人並みに使えるようになったつもりでいたが,それでも使うのを止めた.せっかく買ったのに,もったいないことをしたと思うが,その6年前に買ったマックより性能で劣っていたからである.立ち上がりや写真の処理などスピードが倍近く遅く,ストレスが貯まったのが一番の原因である.その他,今から10年前の機種でもマックでは自動的にバックアップしてくれるタイムマシーン,インターネットの自動接続(ウィンドウズは今でも場所を変えたらプロキシなど設定を変える必要がある),磁石で吸い付く電源,優れたDVDドライブ,カメラなどが標準装備してあり,いつも最先端で使い勝手のよい最高級のものを提供してくれていたので6年後(今でも同じなので10年後)のウィンドウズより優れていたものと思う.一度マックを知ると少数派でゲームソフトなどは少なくてもウィンドウズを買う気が起こらない人が多かったのは,10年前のパソコンを買う人がいないのと同じ理由だと思った.マックを買うときにはわくわくするが,ウィンドウズを買ったときにわくわく感はなく,すぐにこんな古いものは使えないと思った.少数派でもマックが根強く人気を保った理由がここにある.

 ジョブスのもとで働いていたビル・ゲイツがマックと対抗するためにウィンドウズというソフトを作り,マック以外のすべてのコンピュータ会社を取り込んでしまった.あれほど勢いのあったマックが,多勢に無勢で同じような労力でソフトを作っても売上数が相対的に少ないのでゲームソフトなどの制作数が少なくなり,ゲームを楽しむ若い人が離れて行くなど衰退の時代を迎えた.利用者として残ったのは,根っからのマックユーザーの他,機械のソフトの使いやすさで普及していた化学や生物研究者,デザインの美しさなどにこだわって愛好者が増えていた芸能人,そして印刷関係の方たちであった.印刷関係の方に今でもマックユーザーが多いのは,古い話になるがマウスやフォントを開発したり最初に取り入れたりしたのもマックで慣れていたこと,画像処理のスピード,あるいはモニターや印刷したときの色が同じであること,などのためと思われる.

 新しいものを取り入れるのもマックであるが,古いものをあっさり捨てるのもマックである.そのマックがマウスを捨ててトラックバッドを選び,DVDドライブを捨ててインターネットを選び,有線のインターネットケーブルを捨てて無線を選び,HDを捨ててSSDにし,パソコンの本体のプライドを捨ててiPhoneやiPadのようなモバイル機器の使い勝手のよさを取り入れようとしている.マックエアでは無線を持っていない人が買い控えをすることを怖がらずに有線を捨て,DVDドライブがあった方が便利は良いだろうと思う人が買い控えをすることを怖がらずにDVDドライブを外す所にマックのビジョン,先見性がある.マックの後追いをしてきたウィンドウズが,今回はお客さんが減るのを気にして今後しばらくは有線やDVDドライブも合わせて使えるような一見便利のよい製品を販売し続けるような気がする.最初,私もマウスやDVDドライブなど両方あった方が良いのではないかと思っていたが,1年使って見ると何でめったに使わないあんなに重い不要品を持ち歩いていたのかと納得した.必要なら6千円ぐらいで外付けのDVDドライブを買った方が性能も優れ,使いやすいし、値段も高くない.トラックバットとキーボードの組み合わせは,タッチパネルとキーボードの組み合わせより使い勝手がよく,マウスではできない1本指から4本指まで区別して使い分けることができる.

 最近,マックユーザーが増えて来た.私の周りで旅行に持ち歩いているのは,ウィンドウズ・マシーンよりiPadやマックエアーの方が多いように思える.ウィンドウズ・マシーンが少ないのはノート型でも持ち運ぶには重いからで,実際はまだまだ多いことは知っている.慣れ親しんで来たPCを乗り換えるのにはそれだけの動機があるものと思う.軽さだけではなく,使い勝手やデザインまで含めて選んでいるのであろう.1980年代から子供でも使え,今では説明書なしという使い勝手のよさが,切り替えて慣れるのが面倒だと言っていたウィンドウズユーザーにもようやく分かってもらえるようになって来たようである.

 ウィンドウズしか使わない人には,ウィンドウズでも新しい製品が開発されているように思えていたかもしれないが,機能的にはほとんど全てマックの後追い、真似に過ぎなかった.その点いつもマックは未来を見せてくれた.今、マックが力を注いでいる未来に対するビジョンの一つがインターネット環境の利用である.OSでさえもインターネットを使ってアップデートできるし, iCloudを使えばほとんど何もしなくてもモバイルのデータが保存されパソコンと共有でき,タイムカプセルを使えばタイムマシーン,ルータ,無線などの操作を旅行に行って有線しかないホテルに泊まっても不自由することがない,など本当に便利になった.iPadなどでウィルス対策を全くする必要がないことからも分かるように10年ほど前からインターネットでアップデートが行われ,セキュリティの高さもウィンドウズと比べようがない.APPストアで,アプリケーション,音楽,本,あるいはゲームの配信も簡単に安価で即座にでき,ウィルス対策も行われているので安全性も高い.

 一方,小学校で使っていたマックの方が大学で使っていたコンピュータより進んでいたことと似て,以前の大学は最先端のインターネット環境を誇っていたのに今では家でインターネットをする方が快適になっているのは面白い.セキュリティの高いマックだけでなく,ウィンドウズユーザーでもウィルス対策ソフトを導入させればもっと使い勝手のよいインターネット環境は作れると思う.この場合,使い勝手をよくすることが進歩というものである.  


 

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