ダイオキシン発生の原因とされる塩素を含む家庭排出プラスチックごみの調査

                          

 ゴミ焼却場から発生されるダイオキシンが健康な生活を脅かす問題となっている。このダイオキシンは産業廃棄物だけでなく、家庭ごみとして出される塩化ビニル等の塩素を含むプラスチックごみが発生原因の一つとして考えられている。また、学校の焼却炉も極力使用しないように指導がなされるなど、子供を持つ家庭にとっても非常に身近な問題であり、家庭から出るごみについても関心が高まっている。 
 厚生省はごみ焼却場から発生するダイオキシンの削減対策のため「ごみ処理に係わるダイオキシン類発生防止等ガイドライン」を発表し、焼却施設での管理運営上の問題や施設設備の改善等をあげているが、ごみ焼却場から発生するダイオキシンについては生活者の出すごみも生活者に被害を及ぼすという構図であり、ダイオキシン発生の原因となる物質の対処は生活者としても考慮すべき問題である。
 家庭から出るプラスチックごみについて、その材質がダイオキシンの発生原因となる塩素を含む材質であるかかどうかを外観だけで判別するのは困難である。したがって、表示で判断できる範囲において塩素系を含まないラップ類を選択するなどの対応をしている家庭も多くあると思われる。しかし、全ての商品に品質表示が付いているわけではなく、多くの場合、プラスチックの材質の判別ができないのが現状であり、プラスチック類の素材について疑問を持ち、不安に思いながらも可燃物ごみとして出している家庭も多いと考える。
 プラスチックに塩素が含まれるかどうかの判断は、銅線による燃焼時の炎色反応で塩素を含んでいる時、黄緑色の光を発することで家庭でも容易に行うことができる。そこで、家庭から日常の可燃物として出すごみのうち、プラスチックについて塩素含有の有無を調べ、今後の消費行動を見直すためにこの調査を行うことにした。ただし、前述のように表示がない場合、商品購入時にその材質の判別を行うことは困難なので、材質に関する表示の実施状況も同時に行った。

材料及び調査方法
調査期間  平成9年8月1日〜10月8日の約2ヶ月間行った。

調査対象  家庭から出た可燃物ごみのうちプラスチックごみ242品目335パーツをごみチェックした。ただし、ここでいう品目とは商品1点を1品目とし、パーツとは1品目に使用されている包装材、付属品等の点数をいう.インスタントラーメンについていえば1品目、ラーメンの袋、付属の調味オイル袋で2パーツとなる。同一商品についてのチェックは行わなかった。

調査方法  銅線による炎色反応

分類方法  形態分類については分類方法に定義がないため、形態、目的等により16種類に分類した。商品分類については食品と衣料・雑貨品に分け、食品については国民生活セ活センターの消費者相談での商品分類方法を参考に11種類に分類した。

表示    焼却の目安となる表示、材質を特定できる表示として家庭用品品質表示法・プラスチック工業界の自主表示・JHPマーク・PLマーク等を調査した。

家族数   通常3名

結果及び考察

(1)炎色反応について
 品目及びパーツの炎色反応の結果を表1、図1に示す。調査した242品目中39%に当たる93品目から炎色反応があった。そのうちプラスチック材質からの検出は33%の79品目で,材質からは反応はなかったものの印刷や接着剤(以下印刷部分等とする)と思われる部分から弱い反応を示したものは6%14品目であった。生協の商品を除く対象品については202品目中44%の89品目で炎色反応が見られた。そのうち材質からのものは37%75品目,印刷部分等からのものは7%14品目であった。ただし,生協の商品については40品目中10%の4品目について材質から炎色反応があっただけであった。
 袋、ラップ、トレイなどのパーツでは335パーツ中29%99パーツに反応があり、そのうち材質から25%84パーツ、印刷部分等から4%15パーツに反応があった。さらに、パーツにおいても生協の商品を除く対象品と生協の商品とを比較すると生協の商品を除く対象品について290パーツ中33%95パーツから炎色反応があったのに対し、生協の商品では45パーツ中9%4パーツと、品目と同様に生協の商品では少なかった。

 このように一般家庭から可燃物ごみとして出されるプラスチック包装材などにはかなりの割合で塩素を含有するものが多く、これらのものは店頭にも置かれているということである.生協の商品については包装材等の材質について生協を除く商品より塩素の有無を配慮されていることが伺える。
 また,プラスチックの材質の塩素の有無だけに注目しがちであるが、今回の調査でプラスチックの材質だけでなく、印刷の塗料や接着剤にも塩素が含まれていることが確認されたことは,消費者として新しい認識を持つ必要が考えられた。

 さらに調査対象のパーツについては形態別に16に分類した。パーツの形態的分類と炎色反応の関係を見ると特徴としてトレイと併用されるラップ、栓やふたを封印するシール、パックのケースタイプのもの(卵、果物など)、ふた、束ねるためのパックに塩素含有の材質が多く利用されていることが分かった。また、付属品からの反応の割合は高く、見逃せないものであることが分かった。なお、トレイ、容器、キャップ、ネットで炎色反応が見られたものは全くなかった(表2、図2)。
 さらに、調査した対象品を食料品と衣料・雑貨類に分類した結果、食料品から214品目中39%83品目に、299パーツ中29%88パーツに炎色反応があった。また、衣料・雑貨類では、品目で28品目中36%10品目、パーツで36パーツ中31%11パーツと高い割合で炎色反応があった(図3)。

 食料品については11に分類した(表3)。菓子類63パーツから44%に当たる28パーツに炎色反応があった。形態別分類との関係では袋利用菓子類36パーツのうち56%20パーツと過半数のものが反応を示した。また、魚、肉、野菜及びその加工品や調理食品ではラップを利用による炎色反応の割合が高い。
 
 調査対象品のうち食料品が品目では88%の割合を占め、パーツでも89%と高い割合をしめている(図4)。ごみとして出される食料品のプラスチック包装材は重量的には軽いが食料品がごみに占める割合の多さを考えるとたとえ一包装材であっても無視できない存在である。

(2)表示について 
 消費者は商品の購入にあたっては、包装材等を購入目的物としているわけではないが生活者としてダイオキシン、ゴミに関心をもつものであれば、包装材等に関心を持たざるを得ない。ペットボトルのリサイクルが今年から始まったが、この対象品である飲料用、酒類用、醤油用には表示義務があり、  のマークが表示されている。しかし、その他のプラスチック類の表示については台所用品のように家庭用品品質表示法により表示されるものもあるが包装材は法律の適用外である。また、食品用容器や包装材には業界団体で付されている塩化ビニルと判別できるJHPマークや塩素系が使用されていないと判別できるPLマークがある。最近では自主的な表示として日本プラスチック工業連盟のプラスチックの材質を種類別の番号で表示する方法や文字表示が見られるようになった(附表1)。しかし,表示がなければ外見でプラスチックの材質の判別は困難であり、商品の購入時点では塩素を含む、すなわち、ダイオキシンの発生原因となるプラスチックごみを買わないという消費者行動をとることはできない。そこで、包装材の材質の表示についても廃棄時の判断となる表示および、材質が判別できる表示について調査した。 調査した335パーツ中塩素含有の有無を表示により判別できたのは19%64パーツという低い判別率であった(図5)。なお、塩素含有の有無を判別できた64パーツの表示内容の内訳を表4に示す。塩素ビニルと判別できるJHPマークが1パーツあった。しかし、刻印が不明瞭であり容易には見つからない位置にあった。また、1パーツについてはポリプロピレンの表示があったにもかかわらず炎色反応があり表示に偽りがあった。従って、塩素含有の有無が判別できない271パーツのうち炎色反応を示したものは97パーツ36%と高い割合となった(図6)。
 
材質の種類が特定できる表示(PLマークを除いたもの)の割合は335パーツ中13%44パーツと低い表示率であった。ただし、生協の商品の表示については45パーツ中33%の15パーツと比較的高く、生協の商品以外のものについては290パーツ中10%の29パーツにすぎなかった(表5、図7)。

 この調査を始めるきっかけとなったのは、表示があるものは塩素含有の有無を確認でき、購入を控える判断をしているが、表示のないものに対し、「塩素を含有するものを可燃ごみとして出してはいないか?」と言う疑問から始まったものであり、調査の結果、予想以上のものから炎色反応があったことを考慮すると、表示の必要性を強く感じる。さらに、プラスチックのリサイクルを考えるとき、再資源化を効率的、有効に行うためには材質の種類表示が必要である。また、表示に当たってはその表示方法が統一しておらず、国際的にも通用でき子供にも判断できる方法での表示が必要であると思う。

(3)総合考察
 調査の結果、対象品の39%の品目、29%のパーツから炎色反応があり、さらに表示がなく塩素含有の判別ができないパーツのうちの36%と高い割合で炎色反応があったということから日常的に高い割合で、塩化ビニル等がごみになっている事がわかった。このことにより、家庭でのごみ焼却をごみ減量のために行う家庭もあるが、燃焼条件はごみ焼却場より悪いと考えられ、家庭でのプラスチックごみ焼却は安易に行うべきでないと言える。家庭から出るごみの量はそれぞれの家庭のライフスタイルによって差がある。この調査対象のごみ条件は、生ごみは土に還す、牛乳パック、トレイはリサイクルへ回す、リターナルビンの利用も多い、買い物袋を利用し、できるだけレジ袋をもらわないなど、ごみ減量に努力している背景がある。今回の調査期間(約2ヶ月)のうちの7週間のごみの量を測定したところ9135グラムであり、一日平均のごみ量は一人当たり約90グラムとなった。熊本市の平均一人当たりのごみ710グラム(平成7年度統計)のうち台所ごみ(8.7%)を除いたごみ656グラムと比較し約7分の1であった。これらの事を考慮に入れると、平均的な家庭では品目、パーツともに今回の調査結果以上の量の、また、調査対象の家庭では炎色反応を示すプラスチックごみが少なかった生協の商品を利用している事も考慮するともっと多くの割合で塩素を含むプラスチックごみが出されているものと考えられる。熊本市環境事業部によるとプラスチックごみの家庭ごみ全量に占める割合は重量比で20.0%であるが、生ごみを土に還すことや紙類をリサイクルへ回すことでごみを減らす努力をしてもプラスチックごみについては減らすことが困難であり、ごみに占めるプラスチックの割合は高くなってくる。厚生省の「ごみ処理に係わるダイオキシン類発生防止等ガイドライン」では恒久対策の一つとして、減量化、リサイクルを推進し、焼却量を抑制する事が挙げられているが、プラスチックごみの減量には難しさがあり、塩化ビニル等塩素を含有するごみをなくすことが最大の発生防止になるはずである。
 また、消費者がダイオキシンの発生原因となるプラスチック類を買いたくないという考えであっても、塩素を含む多くのプラスチック類を選択していたという事実は表示がなければ消費者の意志が反映できなかったことを示している。これは、消費者の自己責任が問われる中、消費者が責任ある行動をとるには十分な情報が与えられていない結果であるともいえる。
 ダイオキシンの発生防止に関する対策では、高度の処理能力のある焼却炉の新設には莫大な費用を要し、早急に建設できるものではない。ダイオキシン発生の問題は発生源となるものを断つことが、一番の解決策ではないかと思う。製造業者、販売店、行政、消費者、それぞれの立場で考え、行動に移し対処していかなければ一層汚染は深刻になるものと懸念される

参考資料
熊本市環境事業部,1996 『 平成8年度版事業概要』
(財)日本消費者協会, 1996 『リサイクルは今』
日本プラスチック工業連盟,1993『 プラスチック21』
厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課,1997 『ごみ処理に係わるダイオキシン類発生防止等ガイドラインについて』
厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室,1997『産業廃棄物処理部会廃棄物処理基準等専門委員会第7回議事録』



リンク集

1998年6月10日 作成